2021年ミリタリーニュースまとめ:英空母「クイーン・エリザベス」初来航とブルーインパルスの主要飛行

2021年の自衛隊やミリタリー界を振り返ると印象的な物事がふたつある。ひとつは英空母「クイーン・エリザベス」が初めて我が国へ来航したこと、そして航空自衛隊アクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が東京五輪などでフライトしたこと。これらを受けて今年、2022年はどうなるのか想像してみます。
TEXT & PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

イギリス海軍の航空母艦「クイーン・エリザベス(QE)」の横須賀入り

イギリス海軍の航空母艦「クイーン・エリザベス(QE)」は2021年5月に本国を出発、NATO(北大西洋条約機構)加盟国の艦船が加わって打撃群(艦隊)を組み、長い航海を行ない横須賀の米海軍基地へ入港した。これが2021年9月4日のこと。

英空母QEの派遣、長期航海の目的はインド太平洋地域の平和と安定のために英国の関与意志を示すものとされている。実際、日本来航の前に同空母打撃群は関係諸国軍との共同訓練を重ねながら日本を目指した。横須賀に入港中の数日間は岸信夫防衛大臣の視察をはじめとした政治的活動を行ない、出港後は海上自衛隊なども参加した多国間共同訓練を日本近海で重ねたという。こうした新たな防衛協力体制を示すことは、中国を牽制する効果があったと思う。

短い期間、横須賀港に滞在したQEは艦載したステルス戦闘機F-35Bのうちいくつかをその飛行甲板に並べたまま横須賀港を出て、浦賀水道で待ち受けた海自の護衛艦「いせ」と並び、航路を南下して東京湾を離れた。この様子は世界へ配信され、中国政府も当然これを見た。そして中国政府はこれに反発する姿勢を示した。同時に、QEの初来日に関して『日英同盟ふたたび』といった居酒屋談義も聞こえてきた。しかしむやみとマッチョ思考にならず、多国間協調路線が大事なのだと思う。

そうしたなか、英国に本社を置く世界的な防衛関連企業のBAEシステムズは2021年10月、21年内あるいは22年初頃までに日本法人を設立すると発表した。BAEシステムズはQEの主要建造企業だ。同艦の維持管理に関しても主力を務める存在のはず。ステルス戦闘機F-35にも関わっている。そのBAEがQEの初来日直後といえる時期に日本オフィスの開設予定を発表するというのは、英国政府の東アジア関与戦略が本気のものであり、これを根拠としたBAEの行動は日本と東アジア域での商機を睨むものではないか。ようは極東域はビジネスになるとの判断がなされたのだと思う。

つまり、護衛艦「いずも/かが」の空母化と、艦載するステルスSTOVL(短距離離陸垂直着陸)戦闘機F-35Bだ。日英での共通装備になるのがF-35B、その洋上運用拠点とする『空母いずも』、そしてQE。

もし、QEの東アジア展開が今後も行なわれるなら、艦体と艦載機の整備補給・ロジスティクスの前進拠点を日本に置こうと計画するのは妥当だ。BAEの日本オフィス開設が英国政府による政治的先手なのだと考えられなくもない。2022年以降はキナ臭さが増す気がしてならないが、求めているのは世界平和であって、そのために各国各人各所が試行錯誤し努力しているはずだ。

ブルーインパルスの飛行

2021年はコロナ禍での社会変化と不自由な生活が引き続き、これが常態化した。筆者は自衛隊の部隊を訪ねて訓練を見学・取材、あるいは直接インタビューなどはほとんどできなかった。そのなかで、航空自衛隊アクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」の動向には注意していた。対象が航空機なら、空へ上がってくれれば、適地を探して立ち、見て撮って考えて、誌面を作ることができる。

インパルスも飛行する機会を失っていたが、いくつか大規模フライトがあった。ご存知のように東京五輪・パラリンピックでの記念飛行や、医療従事者に対して表敬する東京上空飛行などだ。各々、密を避ける撮影現場を探してカメラマン諸氏が展開し、インパルスの飛行を撮影した。

このような、数少なくなってしまったここ2年のインパルスのフライトを、2022年1月14日発売予定の「自衛隊新戦力図鑑2022」にまとめています、ぜひご覧ください。

この記事を書いている2021年12月下旬時点では、2022年のブルーインパルス年間飛行予定はまだ何も聞こえてこない。今年は彼らの飛ぶ姿を安心して見られる状況になってほしいと思う。

また、自衛隊の催事を考えた場合、陸海空それぞれの自衛隊の年始行事、たとえば陸上自衛隊第1空挺団の恒例年始行事・訓練「降下始め」なども一般観客を招き入れての開催は行なわず、部内行事のみになるという。同じ陸自の総合火力演習や、海自や空自のいわゆる大規模イベントの開催状況も感染状況しだいになるのは濃厚そうだし、となれば部内で撮影した映像配信を主力とした「リモート開催」(と呼ぶのだろうか)が常態化しそうだ。リモート見学が常態化した場合、国民一人一人が直接、自衛隊の現場に生で触れる機会を失うことに繋がりはしないかと心配だ。

この写真は松島基地上空での日常的な訓練飛行の様子。山形庄内の当日が好天なら、こういう光景が見られたであろうという参考写真です。

自衛隊新戦力図鑑 2022 (サンエイムック)

自衛隊新戦力図鑑の最新作です。
ブルーインパルスについても詳しく掲載しています。発売は1月14日です。

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…