溝呂木 陽の水彩カースケッチ帳 連載・第16回 ル・マンのディーノと250LM

溝呂木 陽の水彩カースケッチ帳/連載・第16回 ル・マンのディーノと250LM

クルマ大好きイラストレーター・溝呂木 陽(みぞろぎ あきら)さんによる、素敵な水彩画をまじえた連載カー・コラム。今回は10年ほど前に訪れた、フランス、ル・マンで開催されている偉大なクラシックカー・イベントで見たフェラーリの誇る名車、ディーノと250LMを美麗な水彩画とともにお届けします。
『ル・マン クラシック』のパドック、“グリッド3”の白テントの下で。ディーノとLM。(水彩画)

今回も2010年、フランスに『ル・マン クラシック』を見に行った時の思い出からお話させていただきます。ル・マンのサルテサーキット フルコースをフルグリッド70台近くで、1時間ごとに6クラスの年代順に別れて、昼も夜も栄光の名車たちが3日間走り続けるタフなイベントが『ル・マン クラシック』です。2年ごとに行なわれるこのイベント、ちょうど開催年の今年は6月30日から7月3日までの4日間で開催予定だそうです。コロナ禍のせいでフランスはあまりに遠いですが、しばしあの夏の日の熱い戦いへ思いを馳せてみましょう。

『ル・マン クラシック』では、事前にエントリーリストがネットで公開され、お目当ての車がどのクラスを走るか予習しておくことができます。2010年の『ル・マン クラシック』で気になったのが“グリッド4”のクラスのフェラーリ ディーノ206Sと250LM、そして“グリッド5”の330P3/4でした。国内のヒストリックカーレースではまず見ることができないヴィンテージ・フェラーリが、ル・マンのフルコースを走るのですから、これはぜひ見ておきたかったのです。

会場に着くと早速、一冊10ユーロの立派な雑誌形式の――読み物ページもある――エントリーリストを購入、胸をときめかして各パドックを回っていきます。最初に入った“グリッド3”のパドックで目が釘付けになったのが、愛らしい小ささのディーノ206Sと優雅な250LMの並んだ姿でした。

会場でスケッチしたフェラーリ ディーノ206S。(水彩画)
会場でスケッチした整備中のフェラーリ250LM。ドローゴ・ノーズと呼ばれる長いノーズを持っている。(水彩画)

ディーノは栃木県・茂木(もてぎ)で開催されたクラシックカーイベントでも見たことがありましたが、あらためて250LMと並ぶと、その丸く愛らしい小ささが目に焼きつきました。とても大好きな形で、カロッツェリアのドローゴ・ボディが330P3と同じ時期に作り出した名車です。一方250LMと言えば名匠ピニンファリーナのデザインで、どこまでも優美でいつまでも見飽きない美しさ。特にこのドローゴ・ノーズと言われるロングノーズは1965年のル・マンで優勝したN.A.R.T.の250LMと同じ形状なので、この地で見ることができたのは感慨深かったです。

時間を忘れて大好きな2台を丁寧に鉛筆でスケッチ、優雅なアルミボディの曲面に映り込むさまざまな映り込みの息を呑むような美しさに見惚れ、夢のような時を過ごしました。

コースで見たディーノは、大柄なドライバーのヘルメットがフロント・ウィンドウから飛び出し、まるで子供用の車に乗って走っているよう。250LMもフェラーリの12気筒サウンドを響かせながら優美な走りを見せてくれました。

美しいスタイリングを魅せるディーノ。
素人写真で申し訳ありませんが、こんなカットだと、ディーノの小ささが一段と強調されるかと思います。
走っている姿も優美な250LM。

クラシック・フェラーリの名車といえば330P4も忘れられません。この年の『ル・マン クラシック』には330P3/4――元になったP3をP4の仕様にリボディしてある――の一台がエントリー、これもぜひ見ておきたかった車でした。

P3/4もパドックで大きなリヤカウルを持ち上げた姿が印象的。暑い日差しの中で、ボクは我を忘れてスケッチを続けました。写真からだけでは読み取れないボディのボリュームや色艶を目の前の車から感じ取り、必死に手元の画用紙の上で鉛筆を走らせていきます。

パドックで佇む330P3/4。(水彩画)

これらのスケッチは日本に帰ってから水彩で色つけし、その年の秋の原宿ペーターズショップアンドギャラリーでの個展で発表しました。ペーターズでは毎年個展をしているのですが、別の年の水彩画展でもP3/4をテーマにした作品を発表しています。

友人が購入してくれた、P3/4の水彩画。やはり大好きなフェラーリである512Sと並ぶ姿が印象的でした。
この美しいボディラインが魅力的です。フォードGT40とのライバル対決再びです。

P4は大好きなフェラーリで、先日プラモデルでも作っています。エレールというフランスのメーカーが60年代当時に模型化したP4の姿が印象的で、90年ごろキット化された日本のフジミ製の330P4の形状が優れるノーズ周りやタイヤ、ホイール、ウィンドウなどを移植して、いわゆるニコイチで仕上げたプラモデルがこちらです。フジミのプラモデルでは表現しきれなかったまろやかなボディラインに少しは近づけたかなと思っています。

ボディラインはエレールの古いプラモデルから、ノーズなどをフジミのプラモデルから移植して仕上げた330P4の模型。
エンジンまわりはエレールのものをモディファイしました。

そして次にご紹介するのは2011年の1月、『ル・マン クラシック』の興奮がまだ残っているうちに仕上げたディーノ206Sです。東京・恵比寿にあった今は亡き大好きな模型店『ミスタークラフト』が企画し、尊敬する原型師、故・小森康弘氏が造形した素晴らしいディーノのレジンキットです。

東京・恵比寿にあった模型店『ミスタークラフト』の模型ブランドである『モデラーズ』から発売されていたディーノ206Sのガレージキットを組み立てたもの。

絵を描くことも模型を作ることも、大好きな人への一方通行のラブレターを送り続けるボクの精一杯の自己表現なんだと思います。初恋の人への想い、ボクはずっと大事にしていきたいです。

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著者プロフィール

溝呂木 陽 近影

溝呂木 陽

溝呂木 陽 (みぞろぎ あきら)
1967年生まれ。武蔵野美術大学卒。
中学生時代から毎月雑誌投稿、高校生の…