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本命e:HEVの前に、ガソリンシビックに再試乗
現行型シビック開発のコンセプトワードは、“爽快シビック”である。ただ、“爽快”というコトバはずいぶんと抽象的で、正直、どんなクルマなのかイメージするのが難しい。ところが、実車を前にし、さらにドライブしてみると、“爽快”の意味が腑に落ちてくる。まさに、乗れば分かる、爽快で心地良い、言わば余計なフリクションを感じさせない一台だったのだ。
シビックの3サイズは、4550mm×1800mm×1415mm。Cセグメントハッチバックとしては、気持ち長めのプロポーションを採る。エクステリアデザインは先代モデルとまったく違うのだが、一見、先代と似た印象を受けるのは、ハッチバックもセダンもクーペ風のフォルムを採用し、セダンとハッチバックの見分けが付きにくいという点が、新型でも踏襲されているからだ。現行モデルの日本導入はハッチバックのみだが、リヤエンドがストンと落ちた2ボックス風ではなく、流麗な“クーペハッチバック”フォルムを採用する。これがなかなかに精悍で、獲物を狙うネコ科動物の後ろ足のような躍動感がリヤタイヤやフェンダー周りに感じられる。競合するどの他車にも似ていないし、これが結構格好良い!
ガソリンシビックのパワートレーンは、1.5L 直噴VTECターボ。CVTか6速MTが選べる。L15C型のエンジンスペックは、182ps/6000rpm、24.5kgm/1700-4500rpm。先代シビック搭載のユニットとは同型式ながら、シリンダーヘッド全面新設計など、大幅に手が加えられている。ちょっと踏んだだけでも有り余るパワー感、という感じではないけれど、ヒラリヒラリと気持ち良く駆け抜けるのにちょうど良い。もちろん、モリモリのトルク感が味わいたければ、e:HEV、タイプRといった選択肢があるわけだ。
今回、試乗したのは6速MT車。先代でもMT仕様は3割のシェアを持っていたそうで、一時期よりむしろMT人気が盛り上がっている印象さえある。速く走るためなら2ペダルにアドバンテージがある今、リズミカルなシフト操作を楽しむこと自体がMTならではの美点だとすれば、ショートストロークでコクコク入るシビックのMTは十分に楽しめる。
今回、ワインディングを走る機会はなかったけれど、先代同様、開発当初よりタイプRを想定して設計されたボディの剛性感や、気持ち良く向きを変えていくハンドリング楽しさは健在。郊外の通勤路でこのクルマを使える人が羨ましく感じられた。
試乗は高速移動が中心だったので、ACCも試した。MTのACCって、どうなのか? シビックはMTなのに電動パーキングブレーキを採用するため、停止保持ができる。ただし、シフト操作が必要なため、たとえば渋滞にハマり30km/hまで車速が落ちると残念ながらACCは解除されてしまう。つまり、渋滞対応は不可。とはいえ、ある程度の速度が出ていれば、たとえば首都高で比較的速度の増減が大きくても、3速あたりにギヤ固定のままでも、ズボらな運転を許容してくれる。ギヤを変えないので燃費には良くなさそうだけれど、MT車でも、楽チンしたい時もあるわけで、そんな時にACCを頼れるのはありがたい。もちろん、高速道路が順調に流れている状況なら、ストレスなくACCを活用できるのだ。
最新のシビックは、“爽快”のコンセプトワード通りに、極めて清涼で精良な一台だった。ユーティリティ寄りのモデルが全盛の昨今ではあるけれど、そうでない、コンベンショナルな低全高タイプのクルマを好む層は、今でも一定数存在する。そんな人たちに新型シビックは自信をもってお勧めできる一台だった。e:HEVもタイプRも非常に楽しみだけれど、それもこれも、ガソリンシビックの完成度の高さゆえの期待感に違いない。
シビックおまけのワンポイント
先代でも採用されていたシビックのトノカバーがなかなかの優れものだ。通常の手前に引くタイプではなく、横に引き出すタイプ。ハッチゲートに装着される手前側のカバーと合わせて2ピースになっていることもあり、極めてコンパクトな作りなのだ。通常のトノカバーは室内全幅に渡る台座の部分が非常に長く重く、付けたり外したりはかなりの重労働。その点シビックのトノカバーは、片手でひょいと外せるくらいなのが嬉しい。他車にも広まって欲しい逸品だ。