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内燃機関超基礎講座

ファン・トゥ・ドライブのために生まれた2代目A型エンジン

4A-Gの断面図。3A-U型がベースに選ばれた理由は、軽量化と低フリクション化だった。軽量でコンパクトという特徴を持ち合わせていた3A-U型のストロークをそのままにボアだけを拡大した4A-GEU型は、こうした3A-U型の特徴を最大限に活かすために、クランクシャフトのジャーナルやピンなどの寸法に変更を加えずそのまま流用している。

 カローラレビン/スプリンタートレノ(以下レビン/トレノ)との組み合わせで黄金時代を築き上げた、名機2T-G型(最終型は2T-GEU型)からバトンを受け取るかたちで、1983年5月にデビューした4A-GEU型エンジン。先代の2T-G型が当初セリカ(TA22)の搭載エンジンとして登場した後にレビン/トレノに採用されたのに対し、4A-GEU型は最初からレビン/トレノ用として登場している。これはセリカが大型化したことに加え、先代の2T-G型の存在が、レビン/トレノというモデルとの組み合わせで強力なイメージを確立していたための必然だった。

 2T-G型は名機ではあったが、それ故に時代が長く続き過ぎたということもあって、次世代に対する期待は大きく膨らんでいた。そんな状況のなか、満を持すかたちで登場した4A-GEU型は、その名称からもわかる通りT型系列から脱却。1気筒あたり2バルブのSOHC 4気筒という構成を持つ3A-U型が直接のベースとなっている。

 1452ccの排気量を持つ3A-U型のボアを3.5mm拡大。ボア×ストロークを81mm×77mmとすることで1587ccの排気量を確保、これに1気筒あたり4バルブのDOHCシリンダーヘッドを組み合わせることで、2T-G型を大きく上回る130ps/6600rpmというパワーを搾り出すことに成功していた。

 1気筒あたり2バルブと4バルブという違いはあるものの、吸気側と排気側のバルブ間の角度は2T-G型の66度から50度へと狭角化され、容積が小さく火炎伝播に優れる、現代的なペントルーフ型の燃焼室を形成。シリンダーヘッドは2T-G型と同様にヤマハ発動機によって開発されたもので、4A-GEU型に先駆け1981年に登場していたDOHC 6気筒エンジンの1G-GEU型(GZ10型ソアラなどに搭載)の技術を受け継いでおり、バルブ間の角度も共通だった。

シリンダーヘッドボルトには高いトルクが掛けやすい12角の頭部形状を使用。またピストン素材には高温強度が高く、膨張率の低いローエックス合金(low expansion alloy)を採用。高回転化に伴い外径18mmのクロム鋼製ピストンピンを採用し剛性を確保している。

 また、吸気側と排気側で別体とされたカムカバーの構成や、そのデザインも基本的に1G-GEU型と共通のイメージを踏襲するものとされており、1気筒あたり4バルブゆえの低速トルクの細さを補うべく、低回転域(1G-GEU型では5200rpm。4A-GEU型では4650rpm以下)において吸気ポートの片側をバタフライバルブによって閉じることで慣性吸気効果を狙った“T-VIS(TOYOTA VARIABLE INDUCTIONSYSTEM)” と呼ばれるデバイスや、10万キロのメンテナンスフリー化が可能な、電極部に白金チップを埋め込んだ、いわゆる白金プラグも両者で共通の装備となっている。

 エンジンを高回転・高出力化するのにクランクシャフト周りの寸法をそのままキャリーオーバーするのでは、当然強度的な問題も生じ得るということで、4A-GEU型では高炭素鋼を鍛造成型した8バランスウェイトという、実に贅沢なクランクシャフトを採用。ボア径81mmに対してボアピッチは87.5mmと大幅にコンパクト化された効果もあって、機関整備重量は123kgで2T-G型から23kgもの軽量化にも成功している。

 なお、レビン/トレノは1987年に登場したAE92型よりFFとなる。搭載エンジンは横置きFF用の4A-GELUに変更され、同じくFF用のコンポーネントを採用していたミッドシップのMR2(AW11)にもこのエンジンが搭載されることになったが、4A-GEUとの差はエンジンのマウント方向の違いくらいだったうえに、4A-G系列からFR用の縦置きエンジンが姿を消したことで、AE92の後期モデル(1989年)から4A-GELUは再び4A-GEUという呼称で統一されることとなっている。

自然吸気から過給機つきまで。時代に応じて仕様を変え、増やした

4A-G用のカムシャフト。カムシャフト素材には合金鋳鉄を採用しカム部分にチル処理を施すことで硬度を高め、優れた耐磨耗性を確保。カムジャーナルは5軸受けで、ジャーナル径は27mm。リフト量は吸気側、排気側ともに7.56mmとなっている。
4A-GEU型では高炭素鋼からの鍛造成型という実に贅沢なクランクシャフトを採用。いわばフルカウンターともいえる1気筒ごとにカウンターウェイトを備えた、高回転高出力向きの本格的な形状となっている。

 4A-GEUの燃料供給には先代の2T-GEU型から導入されている電子制御インジェクションを引き続き採用。電子技術が加速度的な進歩を開始した時期であったということに加え、エンジン制御技術の研究も日進月歩で進んでいたこともあって、先代とはまったく異なるシステムとなっていた。最も大きな違いは2T-GEU型のシステムで用いられていたフラップ式のエアフローメーターが姿を消したということで、これによってバキュームセンサーによって検出された吸気管圧と、回転数によって吸入空気量を推測するというスピード・デンシティ制御(Dジェトロニックとも呼ばれる)に改められている。

 この電子制御インジェクションシステムの中核となるECUは、8ビットマイコンを使用するという、現代からすると初歩的な部類のものであったが、燃料制御だけでなく、点火制御までを一括制御するようになり、アクセルを踏み込んだ際にクランクの位置やタイミングとは関係なく噴射を行なう「非同期噴射」という、いわばキャブレターの加速ポンプに相当する機能が追加されている。低燃費・低エミッションを目指しながらもレスポンスを確保するための手法だ。

 1986年にはMR2(AW11)用としてルーツ式のスーパーチャージャーを組み合わせた4A-GZE型が登場。圧縮比が8.0:1と低めに設定されていたこともあって145ps/6400rpmという、中低速域でのトルクを補う程度の控えめのものだったが、その後レビン/トレノにも搭載されることになった4A-GZE型は1987年(AE92)には圧縮比を8.9:1に高めたことなどによって165ps/6400rpmを発揮。最終的には170ps/6400rpmを発揮するに至っている(1991年、AE101)。

 また、ほかのハイパワーバージョンとしては1991年にAE101型レビン/トレノ用として1気筒あたり5バルブとした4A-GE型が登場。吸気側に可変バルブタイミング機構「VVT」を採用し、制御系をエアフローメーターによって吸入空気量を計測するマスフロー制御(Lジェトロニック)へ変更。4バルブよりもさらに扁平でコンパクトな燃焼室により、10.5:1という圧縮比を得て、160ps/7400rpmというパワーを実現。さらに1995年のAE111型レビン/トレノ用では、制御系をスピード・デンシティ制御に戻し、圧縮比を11:1へと高めることで165ps/7800rpmを発揮している。

 トヨタは1987年に乗用車用ガソリンエンジンのすべてをDOHC4バルブ化するという方針を発表。これによりスポーツユニットではないベースグレードのエンジンとして、超狭角のバルブレイアウトを持つ低燃費エンジン「ハイメカツインカム」が、同社のあらゆるクラスのモデルに浸透していった。パワーの追求だけでなく、省燃費性や低エミッションまでを視野に入れて開発された4A-GEUの存在が、こういった新時代の流れを形成するうえで重要な役割を果たしたであろうことは想像に難くない。第二世代を迎えた量産DOHCの登場によって、高性能が贅沢な嗜好品だった時代は終焉を迎えたのである。

誕生から40年以上が経った今、4A-Gの復刻部品がトヨタ純正で登場した

東京オートサロン2026にて展示された「復刻版」4A-Gのシリンダーブロックとシリンダーヘッド。2月1日より受注を開始した。価格はヘッドSUB-ASSYで64万7900円、ブロックSUB-ASSYで65万8900円(いずれも税込)。Photo:Akira AKAZAWA(MFi)

 すでに登場から40年以上が経っている4A-G型エンジンの人気は今なお衰えないでいる。当時から多くの走り屋と呼ばれる人たちの4A-Gを搭載したAE86などへの熱い人気、それに伴いカスタマイズのパーツが多数販売されたことも一因にある。モータースポーツのフィールドにおいても、グループAではTRDによる200psオーバーの4A-Gを搭載したカローラ、フォーミュラカーの世界では若手育成カテゴリーのフォーミュラ・トヨタのマシンに1990年代後半から2013年ごろまで、この4A-Gが使われ続けてきた(なお、後年SUPER GTに「RI4AG」と呼称される2L 直列4気筒ターボエンジンが投入されたが、これは偶然同じ文字が並んだだけで4A-Gとは無関係)。

 さらに、1995年に連載を開始した漫画「頭文字D(イニシャルD)」では、主人公の藤原拓海が「藤原とうふ店(自家用)」と書かれたAE86トレノを劇中で駆っていたことから、日本のみならず世界中の読者に強い印象を与え、今に続くハチロク人気に火をつけた。クルマに明るくない人でも、「走り屋=豆腐屋のあのクルマ」と連想させるほどのカルチャーを醸成した。昭和、平成、令和と3時代が経過した今でも、4A-Gを搭載したハチロクはなおも多くのファンたちによって公道を走っており、中古市場での相場も上昇の一途を辿っている。

 しかし、4A-Gもエンジンである以上、乗り続ければ部品自体も徐々に消耗していく。日本や海外でもハチロクは走り続けるいっぽう、発売から何十年と経過したクルマとなれば補修部品の供給面が懸念点となってくる。エンジンもアフターパーツが比較的豊富にあるとはいえ、いつかは在庫切れになると思えば安心して夜も眠れない。これからも末長く乗り続けたいファンにとっては死活問題だ。

 そこで、トヨタは旧型車の補修部品を復刻し純正部品として再販売する取り組み「GRヘリテージパーツ」の対象車種に、このAE86を加えた。パーツラインアップはエンジンルームのワイヤーハーネスなど多岐に渡り、そして2025年9月には4A-Gのシリンダーブロック、シリンダーヘッドの復刻が発表された。復刻されたブロックとヘッドは、基本諸元などは変えずに現代の加工技術と材料で耐久性を上げつつ製作されている。さらに、これまで4A-Gを使ってきたユーザーからの声を反映し、縦置きと横置きのどちらにも対応できるようにボスとリブを設けていることもポイントのひとつだ。

 絶版車の部品を再販するということはまさに「言うは易く行うは難し」である。協業のサプライヤーとともに金型など解決しなければいけない課題も多く、ビジョンは思い描けても一筋縄ではいかない事業だ。しかし、こうして4A-Gのシリンダーブロックとヘッドをメーカー自ら進んで復刻しただけでなく、永く使えるようリニューアルを受けたうえでパーツリストに再び加えた背景には、今なおこのエンジンがもたらす「ファン・トゥ・ドライブ」の走りを愛する世界中のファンたちの存在と、それを認知するトヨタとしてもこのカルチャーをできる限り守り続けたいという心意気に他ならないだろう。

トヨタ 4A-GE 主要スペック

エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1587cc
ボア×ストローク:81.0×77.0mm
圧縮比:9.4
最高出力:82kW/6600rpm
最大トルク:126Nm/5200rpm
シリンダーブロック/ヘッド材料:鋳鉄/アルミニウム合金
吸気弁/排気弁数:2/2
燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射)
点火順序:1-3-4-2
バルブ駆動方式:直動式

トヨタ・スプリンタートレノ(AE86)
トヨタ・カローラレビン(AE86)
トヨタ・スプリンタートレノ(AE92)
トヨタ・カローラレビン(AE101)
トヨタ・カローラレビン(AE111)

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