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Marc Philipp Gemballa Marsien
ベースに選ばれたポルシェ 911ターボS

「マーク・フィリップ・ゲンバラ GmbH」は、ポルシェ・チューナーのウーヴェ・ゲンバラの息子、マーク・フィリップによって2021年に立ち上げられた。アストンマーティン、メルセデスベンツ、ポルシェなどに在籍経験を持つ彼は、父親が亡くなった10年後、かつてのゲンバラとは一切関係のない自身の会社を設立。同社初の市販モデルとして、ポルシェ911(タイプ992)をベースとする「マルシャン」を開発している。
マーク・フィリップ・ゲンバラは、特別なデザインが与えられた車両「プロジェクト サンドボックス(Project Sandbox)」の少量生産を計画。これまでにない斬新なデザインと先進技術にフォーカスしたパワートレインを組み合わせることで、かつてのゲンバラのようなチューニングメインから脱却した、新たなマーケットの創設を目指している。
2021年、2年以上にわたる集中的なデザイン、パワートレイン&シャシーの開発を経て、若き起業家による最初のプロジェクト「マルシェン」が誕生。かつてパリ・ダカールラリーで活躍したポルシェ959をオマージュし、オンロードとオフロードを高次元で組み合わせた性能、そしてモダンでありながら時代に色褪せないスタイリングが与えられた。
フランス語の火星から採られた車名「マルシャン」

プロジェクト第一弾のためには、最先端の技術を駆使した最新のプラットフォームが必要だった。また、オフロードにおける要求性能を満たすためには、最新の洗練された四輪駆動システムを持たなければならない。この結果、マーク・フィリップは最新のタイプ992、ポルシェ911ターボSをチョイスしている。
プロトタイプがドイツで製造された後、アラビア半島のアル・ファヤ砂漠で徹底的にテストされた。大量生産は予定せず、わずか40台のみ限定生産。発売前の段階ですでに半数以上のオーダーが埋まっている。卓越したデザイン、最先端のテクノロジー、強力なパフォーマンスを備えたこのスーパースポーツには、そのユニークな資質や特徴を表現した適切なネーミングが必要だと、マーク・フィリップは考えた。
開発チームはアル・ファヤ砂漠を舞台としたテストにおいて、赤い砂や鋭く尖った岩山が組み合わさった、他にはない砂漠の美しい風景に圧倒されたという。「あれは全く別世界にいるような感覚でした」とマーク・フィリップは振り返る。そして、アラブ首長国連邦のアル・ファヤ砂漠が持つ、その独特の真っ赤な砂と火星のような光景にインスパイアされ、車名はフランス語で火星を意味する「Mars」から採られ、「Marsien:マルシャン」に決定した。
空力レベルが最適化されたフルカーボン製ボディ

マルシャンは、フルカーボンファイバー製ボディを採用。すべてのエクステリアパーツは、パフォーマンス、軽量化、冷却のために専用設計されたピュアカーボンファイバーで製造されている。それぞれのボディパネルは、スーパースポーツメーカーやF1チームにOEM供給しているドイツの大手カーボンファイバー専門メーカーが生産を担当する。
マーク・フィリップ・ゲンバラは、デザインに一切の妥協を許さず、デザイナーにはポルシェ908のデザインを担当したことでも知られているアラン・デロジエを起用。モダンでありながらタイムレスなマルシャンのデザインを完成させた。たとえばオリジナルデザインとなるテールライトは最新のLED技術を採用。ライトシステムのスペシャリストであるゲルグ・ライトハウス(GERG Lighthouse)と共同で開発している。
ボディ形状は、CFD(流体力学)解析を駆使してエアロダイナミクスレベルを最適化。この作業は、20年以上にわたってLMP1、フォーミュラE、F1などのモータースポーツカテゴリーにおける空力開発を行ってきた、エンジニアリングパートナーのKLKによって行われている。
サイドフラップ付きフロントスプリッター、サイドシル、ウイングミラー、エアインテーク&アウトテイク、エキゾーストフレーム、フラップ付きリヤディフューザーなど、カーボンファイバー製コンポーネントが標準装備。オプションとして、ネイキッドカーボンファイバー製ボディも用意されている。
RUFがチューニングを担当したボクサー6

パワーユニットは、伝説的なポルシェ製エンジンのスペシャリスト「RUF」と共同で開発。1981年に設立されたRUFオートモビルはポルシェ製エンジンに精通していることで知られており、1980年代にはマーク・フィリップ・ゲンバラの父である、ウーヴェ・ゲンバラと共に様々な車両のパワートレインを製作している。
エンジンアップグレードプログラム「POWERED BY RUF」によって、搭載する3.0リッター水平対抗6気筒エンジンは最高出力750hp以上、最大トルク930Nmを発揮。さらなるパワーを求めるカスタマーには、RUFによるセカンドステージプログラムも用意されている。強化されたVTGターボチャージャー、ECUマッピング、トランスミッションの設定を変更することにより、エンジンの最高出力を830hpまで引き上げることが可能だ。
サウンド面に関しては、パフォーマンスエキゾーストのリーディングカンパニーである「アクラポヴィッチ」が、このプロジェクト専用のチタン製エキゾーストシステムを開発している。
足まわりに関しては、サスペンション&シャシー技術のパイオニアである「KWオートモーティブ」社と技術提携し、専用の車高調整式サスペンションを開発。車高調整システムはスイッチを押すだけで電子制御式の油圧リフトが作動し、オフロードでは車高を250mmまでリフトアップすることが可能。オンロードでもオフロードでも究極のドライビング体験を提供する。
発表時点で限定40台のほとんどがソールドアウト

インテリアは、エクステリアが持つエレガンスと美しい調和を実現。ポルシェ カレラ GTにインスパイアされたカーボンファイバー製ミドルコンソール、GTスタイルのドアラッシュ、カーボンファイバー製サイドシルに加え、コクピット全体にカーボンファイバー製アクセントが施された。
カーボンファイバー製センターコンソールには、限定40台のうちの1台であることを証明するシリアルプレートを配置。また、パドルシフトには味わい深いハンドステッチを施し、フロアマットやヘッドレストにも同様のステッチが用いられている。
価格は49万5000ユーロからの設定で、これにオプションとドナーカー「ポルシェ911 ターボS」のコストが加わる。ワールドプレミアを前にしたプロジェクト立ち上げの段階で、マルシャンはすでに世界的な人気を集めている。特別仕様のローンチエディションは10台を製造するが、発表前にすでにソールドアウト。全製造数40台のうち、現在もオーダーが可能なのは数台のみだという。製造開始は2021年後半を予定しており、準備が進められている。