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Rolls-Royce Phantom Orchid
ビスポーク専門スタッフが常駐するグッドウッド
もしも世界に1台しか存在しない自分だけの高級車が欲しいなら、ロールス・ロイスのビスポークプログラムを利用するのが一番“簡単”かもしれない。英国グッドウッドの本社では、ビスポーク専門のスタッフと専用の部屋が、いつも顧客が訪れるのを待っている。そこに用意されているのは、様々なアート作品や工芸品、はたまた隕石のような類まで、貴方のインスピレーションを刺激する様々なヒントの数々である。
貴方はそこで専門のスタッフと共に、自分の理想とするロールス・ロイスの“絵”を二人三脚で描き上げていく。そうして完成したモチーフは、グッドウッドのクラフトマンたちによって、世界に2台とない自動車として仕上げられるのだ。貴方が思い浮かべた夢の世界を、コーディネートから設計、仕立てまで、クルマづくりのプロフェッショナルが1台の車両に落とし込む。それがロールス・ロイスのビスポークなのである。
2年かけて完成した“蘭”をモチーフにしたファントム
「ファントム オーキッド」も、ロールス・ロイス流儀のビスポークが生んだ1台だ。シンガポール在住の注文主が望んだのは、しなやかで美しく、かつ強さを漂わせる蘭の花をモチーフとすること。グッドウッドのビスポークチームは初めて採用するモチーフの製作にクラフトマンシップの粋を尽くして取り組み、2年をかけて1台のファントムを完成させたという。
製作に協力したのは英国人のアーティスト、ヘレン・エイミー・マレー。マレーは6名のチームメンバーとともに、シンガポールの国花である「バンダ・ミス・ジョアキム」を始め、いくつかの種類の蘭に着目し、200時間をかけてアートワークを完成させていった。ヘレンは次のように語っている。
「まずは実際の蘭の花をよく観察することから始めました。すると、それぞれの種のエッセンスを引き出すには、色が鍵になるということがすぐに分かったんです。私自身、過去に蘭をモチーフにしたアートワークを手掛けたこともあるのですが、今回の“ギャラリー”(ロールス・ロイスのフェイシア)に相応しいのはもっと現実に近いフルカラーの蘭だと思いました。ですからデジタルプリント技術を採り入れることにしました」
マレーのアートワークは普段、比較的彩度を抑えたものが多く、同じ色の濃淡で表現するグラデーションなどもよく見られる。マレーにとって、鮮やかな配色を扱う今回のプロジェクトは刺激的な経験になったそうだ。
加飾パネルにはシルクのサテン地を使用
彼女はまず手書きでデザインをスケッチし、その後シルクのサテンクレープ生地に直接印刷できるデジタルデータを作り上げた。鮮やかに蘭の花々をプリントした生地は、3次元の奥行きある加飾パネルとするべく、彫刻など細やかな手仕上げが加えられていった。
また、リヤシート用のピクニックテーブルにも特別なあしらいが施された。ロールス・ロイス ビスポークデザイナーのヨハン・ベンシェトリは、ピアノブラック仕上げの美しいウッド面に美しい蘭のモチーフを表現。さらに、スカッフプレート部分にも愛らしい蘭のイメージを採り入れている。それ以外の内装材はあくまでナチュラルな色彩で整えることで、蘭の鮮やかさを引き立てるとともに、乗員を包み込む“聖域”としての雰囲気を作り上げた。
最新の塗装技術を駆使した真珠のようなボディ
最新の塗装技術を駆使したボディカラーも「ファントム オーキッド」の特徴である。ベースとなるカラーは「アークティックホワイト」で、そこに蘭をイメージしたヴァイオレットの色味を追加。
さらにガラスフレークを加えて、まるで真珠のようにはかなげな虹色を湛える独特の光沢感を生み出している。見る角度によって様々に輝き方を変化させる塗面には、シンプルながらも明らかな違いを放つ「ファントム オーキッド」らしいこだわりが詰まっている。