特製カーボンパネルを採用した世界に1台のファントム

ロールス・ロイスのカーボンづかいが凄すぎる! 2年かけて製作した超スペシャルなパネルとは

「カーボン ヴェイル」を採用したロールス・ロイス ファントム。フロントビュー
ドバイのオーナーがオーダーした、ビスポーク仕様のロールス・ロイス ファントム。カーボンを主役に据えた今回のファントムは、ガンメタのボディカラーにオレンジのコーチラインを採用。ちなみにスピリット・オブ・エクスタシーもカーボン製。
ロールス・ロイスは、ドバイの顧客がオーダーしたファントムのビスポークモデルを公開した。そのダッシュボードには、150層のカーボンで作成した特別な加飾パネルが嵌め込まれている。

ビスポークの専用ルームと専門チームを用意

「カーボン ヴェイル」を採用したロールス・ロイス ファントム。サイドビュー。ドア開
「カーボン ヴェイル」を採用したロールス・ロイス ファントム。白×グレー基調のインテリアにも、鮮やかなオレンジのアクセントカラーが配されている。

ロールス・ロイスのビスポーク(オーダーメイドで自分だけの仕様にする)率は極めて高い。英国グッドウッドの本社にはビスポーク専門のスタッフが常駐しており、仕様を打ち合わせる部屋には、顧客のインスピレーションを刺激するための様々なヒント──色や素材のサンプル、絵画や工芸品、写真、隕石まで──が用意される。

レザーの種類やボディカラーはもちろんのこと、ダッシュボードに貼り付けるパネルやシートの刺繍、コーチラインの意匠に至るまで、顧客はグッドウッド本社の専門スタッフと、とことん納得がいくまで膝を詰めて世界に1台だけのロールス・ロイスを完成させていく。まるで自分だけの芸術品を注文するようでもある。ロールス・ロイスを買うということは、単に車両を手に入れるだけでなく、ビスポークをするというこの行為もまた、価値に含まれるのだ。

2年かけて製作したカーボンパネル

ロールス・ロイス ファントムのビスポーク仕様が採用した特別なカーボン製加飾パネルを採用したフェイシア
ロールス・ロイス ファントムのビスポーク仕様は、ダッシュボードに特別なカーボン製加飾パネルを採用している。パネルの製作には2年の時間を費やしたという。

今回ロールス・ロイスが公開したのは、ドバイの顧客が注文したファントム。一見シンプルに漆黒基調でまとめられているようだが、実はかなり手の込んだ特別な“パーツ”があしらわれている。それが、ダッシュボードに使われた「カーボン ヴェイル(Carbon Veil)」と呼ぶ加飾パネルだ。製作には、じつに2年の期間が費やされたという。

「カーボン ヴェイル」は、150もの層のカーボンファイバーを重ねて作り上げた渾身の一作。デザインの発想元となっているのは、「118ウォーリーパワー」という高級モーターヨットだ。ウォーリー社の製品は、ステルス戦闘機やSF映画に登場する航空機を彷彿させる独創的なデザインを特徴としている。

F1メカニック出身のアーティストが参画

ロールス・ロイス ファントムのビスポーク仕様が採用した特別なカーボン製加飾パネル
ロールス・ロイス ファントムのビスポーク仕様が採用した特別なカーボン製加飾パネル。カーボンファイバーならではの複雑な織り地と、大胆なエッジを効かせたデザインが共鳴し、シンプルながらも迫力のある独特のムードが生まれている。

製作にはカーボンファイバーアーティストのアラステア・ギブソン氏が参画している。ギブソン氏はF1のメカニックとして14年のキャリアをもつ人物で、ベネトンのリードメカニック、BARホンダのチーフメカニックなどを歴任してきた。モータースポーツ世界で学んだエンジニアリングの知見を活かし、現在はF1マシンのパーツを再利用してアートワークを製作している。

通常、自動車の装飾に用いられるカーボンファイバーは、3〜4層で構成されている。一方、今回のファントムに使ったカーボンの層はじつに150枚。そこに樹脂を含浸させ、一塊の工業部品として仕上げている。

医療現場並みのクリーンルームで製造

ロールス・ロイス本社にあるクリーンルーム
ロールス・ロイス本社にあるクリーンルーム。医療現場並みの清浄度を実現したこの一室で、ファントムの特別な加飾パネルは作られた。

表面は、ツヤ消し部分、そしてラッカー塗装による濡れたような肌合いの部分を組み合わせて構成。いずれも紫外線による退色を防ぐべく保護膜が与えられている。さらに、その上を1枚ガラスで覆うことで、まさに“ギャラリー”に展示されたアートのような見栄えとしている。

この加飾パネルは、グッドウッドに2020年に完成した「クリーンルーム」で作られた。医療現場並の清浄度を確保した同社のクリーンルームでは、一片の埃や一本の髪の毛、雑菌の侵入さえ許されない。理想的な無菌状態を作り上げるにあたっては、ロールス・ロイスの専門家が製薬会社やマイクロプロセッサー製造会社を訪問。塵埃の侵入を防ぐべく室内を陽圧に保ち、微粒子数を常時計測するセンサーを備えたクリーンルームを設計した。何らかのコンタミが検知された際には、いつどこに発生したかが分かるようになっている。

天井部分には、高性能フィルターで空気中に浮遊する粒子状物質を取り除くための複雑な濾過システムを設置。このクリーンルームで作業できるスタッフは5名だけで、一度に入室できるのは2名までに制限されている。クリーンルーム内は4部屋に区切られており、最初のエリアでは全身についた埃や髪の毛などを徹底的に取り除く。

100年後にもファントムがファントムでいるために

「カーボン ヴェイル」を採用したロールス・ロイス ファントム。リヤビュー
「カーボン ヴェイル」を採用したロールス・ロイス ファントム。ロールス・ロイス、とりわけファントムを注文する顧客のほとんどは、自分だけの仕様がオーダーできるビスポークシステムを通じて愛車を購入するという。

入室時には、リントフリーの(糸くずのでない)医療向けサージカルウェアやヘアネット、マスク、オーバーシューズを着用。化粧やヘアケア、デオドラント用品の使用は一切許されない。パウダーフリーのラテックスグローブはロールス・ロイス専用に開発されたものを使用している。

もちろん、人間だけでなく、持ち込む部品そのものも徹底的にクリーンにする。クリーンルーム横には搬入経路を設け、保護フィルムで完璧に包んだうえ、二重壁の密閉コンテナに格納したパーツが運ばれていく。クリーンルーム手前でコンテナ外皮は取り払われ、残った内壁はスタッフ同様、さらなる汚れや埃のチェックが行われる。クリーンルームの入り口にはエアロックを設置したうえ、各エリアの室間差圧を徹底して制御。梱包を剥がされたパーツは、紫外線ライトや高倍率の拡大鏡などを用いて一片の異物も持ち込まないよう念入りにチェックされるという。加えて、この部屋の完璧な清浄度を保つため、週に最大8時間かけて徹底的なクリーニングが実施されるのである。

ロールス・ロイスは寿命がとても長いクルマだ。116年の歴史の中で作られたすべてのロールス・ロイスのうち、3分の2以上が走行可能なコンディションをいまも保ち続けているという。今日作られているファントムも100年後に変わらぬ状態を保てるよう、可能な限りの高品質を追求している。クリーンルームはそれを象徴するひとつといえる。

ロールス・ロイス ファントム オーキッドのフロントビュー

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著者プロフィール

三代やよい 近影

三代やよい

東京生まれ。青山学院女子短期大学英米文学科卒業後、自動車メーカー広報部勤務。編集プロダクション…