清水浩の「19世紀の技術を使い続けるのは、もうやめよう」 第22回 

脱・温暖化その手法 第22回  —半導体が20世紀後半の世界を変えたー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Eliica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

半導体とは少しだけ電気を通す物質

第20回目の量子力学の回以降、内容が難しくなってきていると思う。しかし、温暖化の抜本的な対策を行なうための技術に関して、理解を頂くために、避けて通れない事項なので、少し辛抱して頂きたい。

半導体という言葉は、誰でもが知っている言葉であるという前提で話を進めたい。物質には金属のように電気を良く通す導体と、通さない絶縁体があり、半導体は少しだけ電気を通す物質のことだ。第20回で量子力学の発展の中で、原子の構造について述べた。ここでは核の周りを回る電子が存在できる軌道の位置は、原子核から見て飛び飛びの位置に決まっていることは述べた。これは原子が1個だけ存在する場合で、固体のように極めて多くの原子が集まっている場合には電子が存在する位置は線状ではなく、多くの電子があるためには帯状で一定の幅を持つことになる。

このような考え方で、固体の性質を理解するために考え出されたのが、バンド理論である。バンド理論は実験の結果とも良く一致するために、広く使われている。

バンド理論では原子核からバンドの位置が遠くになるに従って、原子核との間での位置エネルギーが高くなると解釈する。これは外側のバンドから内側に引張り力が働いて、電子が落ちてきて、そこに電子がたまるというイメージである。さらに原子核から最も遠いバンドは最外殻バンドと呼ばれている。この解釈の上で最外殻バンドの全てに電子が詰まった状態が絶縁体で、ここに電子の存在する余地があるのが導体である。余地がある場合には電子は自由に動くことができ、電子は電気も熱も運ぶことができるために導体となり、導体は熱も良く通す。

ここで中学生の理科の教科書に出ている周期律表を思い出してみたい。左上に水素、右上にヘリウムがあり、2段目がリチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ネオンであることは高校の化学の授業で「水兵リーベボクのフネ」などのように習ったので、割と多くの人々は今でも記憶しているのではないだろうか。語呂合わせは3段目、4段目までも続いている。

元素周期表

20世紀の技術が今ある問題の解決に・・

そして周期律表の中央で2段目の炭素、3段目のシリコン、4段目のゲルマニウムの左側が金属で、右側が絶縁体ということも実は学んでいる。さらに中央のシリコン、ゲルマニウムが半導体であることもうっすらと憶えている人も多いだろう。

半導体とはバンド理論上では伝導帯と名付けられた最外殻バンドと価電子帯というその1つ内側のバンドの間の位置エネルギーの差がごく僅かな物質である。このために極低温で外部からの刺激がない時には伝導帯に電子が存在せずに、従って電流は流れない。ところが常温では熱の影響で価電子帯から電子の一部が伝導帯に飛び出してくる。この電子は半導体の中を自由に動くことができるから、半導体は少しだけ電気を流す。また、電子が抜けた価電子帯には穴があく。これをホールと呼ぶが、ホールも自由に動くことができるため、電子が動いたのと同じ様に少しだけ電気を流すことになる。

なお、伝導帯の最も下と、価電子帯の最も上の間をバンドギャップという。絶縁体ではバンドギャップが大きく、半導体は小さい。このため、バンドギャップが小さな半導体では、常温では熱の影響で価電子帯に存在する電子の一部がバンドギャップを飛び越えて伝導帯に飛び出してくるということになる。

こうして「半導体とは何か」が量子力学の発展の上で理解ができるようになったのである。その結果、半導体の応用事例が次々に生まれ、現在の我々の生活にも欠かせないものになっている。

さらに、温暖化問題解決の抜本的な技術も、実はここから生まれているのである。

「電気自動車 その利点と可能性」 清水浩著/日刊工業新聞社刊/B6判/221ページ/ ISBN 9784526012648

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…