
1970年代初頭は2ドアクーペのスペシャルティカーが大いに人気を博した。トヨタ・セリカと三菱ギャランGTOが発売されたことでブームに火がつくと、立て続けに他メーカーからも同様の車種が発売される。元祖とも呼べるギャランGTOを発売した三菱としては、GTOより小排気量の小型クーペとしてギャランクーペFTOを発売して他社を牽制した。

だが、70年代といえば排ガス規制とオイルショックによりスポーツカーにとり冬の時代でもあった。排ガス規制に適合させるため、各社はエンジンに変更を余儀なくされ出力の低下だけでなく高回転まで回らないようになる。またオイルショックにより燃費の悪いスポーツカーは「悪」のようにみられ、支持を失っていく。

そんな時代の最中、1975年にFTOの後継車として発売されたのがランサーセレステ。ランサーの主要コンポーネンツを流用した3ドアクーペで、FTOと違って直線的なスタイルとされた。エンジンは1.4と1.6リッターの4気筒でトップグレードのGSRには2バレル・ツインキャブレターが採用された。ただ、廃ガス規制の影響で思うほどスポーティな特性ではなく、むしろスタイルはスポーティながら走らせると普通の乗用車的な感覚だった。

走行性能のためか人気は伸び悩み、輸出国であるアメリカで発売されたプリムス・アローが人気を博したのと対照的だった。そのためか国内での残存台数は悲しいほど少なく、旧車イベントでも見かける機会はほぼない。ところが2026年6月7日に埼玉県秩父市にある「ちちぶ花見の里」で開催されたイベント「花見の里で感謝の集いやります!」の旧車展示でセレステを見かけることができた。

せっかくの希少車なので取材を申し込む。セレステのそばにいたオーナーは65歳になる髙橋準さん。髙橋さん自身も「珍しいですよね」と評するセレステだが、なんと他にもギャランGTO GSRやミニカ70といった古い三菱車を所有する三菱マニアでもあった。

年数は忘れてしまったそうだが、もう随分と前に知人から直接譲り受けた車体。やはり三菱マニアである髙橋さんなら維持し続けてくれるだろうとのことから縁が生まれた。ただ、先にあげた三菱車以外にもホンダ・ライフやオースチン・ミニ・クーパー1275Sも所有されているというから、古いクルマなら全般的にお好きなようだ。

「ボロですよ」と言われるが再塗装されたわけではないボディは十分に綺麗な状態。ところどころサビが浮き出ているのは年式を考えたら当たり前で、むしろ程度は良好。しかも髙橋さんのセレステはマイナーチェンジ後に発売されたサイレントシャフト付きサターン80エンジン搭載の1600GTで、さらに豪華なオーディオシステムを装備する「システム80」という珍しいグレード。8トラック式カセットステレオと4スピーカーを装備する本格派ながら、今では積んでいるラジカセで音楽を楽しまれている。

これまでにトラブルも経験している。エンジンがノッキングを起こしていたのだろう、ピストンが棚落ちしてしまったのだ。ピストンの外周部が欠損してしまう症例で希少車、さらには古いクルマの部品供給が決して良くない三菱ゆえ、エンジンの修理は諦めている。どうしたかと言えば違うエンジンに載せ替えたのだ。とはいえトラブルはそれ以降なく、比較的手がかからずに維持できているとか。年に一度、長野県で開催される三菱旧車乗りのミーティングにも参加され続けているそうだ。
