連載
自衛隊新戦力図鑑「あぶくま」型護衛艦のフィリピン輸出
2026年7月、フィリピンのテオドロ国防相は海上自衛隊の護衛艦「あぶくま」型5隻の取得について日本との原則合意に達したことを表明した。数年以内にフィリピンに引き渡される見込みだ。
「あぶくま」型は満載排水量2900トンの小型護衛艦であり、近海警備用として1989~1993年のあいだに同型艦6隻が就役した。日本の防空エリア内の、近海で使うため防空装備は乏しく、対潜水艦能力に重きが置かれている。また、そもそも30年前の旧式艦であり、2027年度までの全艦退役が決定していた。
なぜ、フィリピンは日本の旧式艦を導入するのだろうか? また、旧式艦をどのように使うつもりなのだろうか? フィリピン海軍の現状を踏まえ、解説してみよう。

急速な艦艇近代化を進めるフィリピン海軍
フィリピンは2012年末に大規模な軍近代化計画を策定し、海上戦力の一新に取り組んでいる。きっかけは中国の脅威だ。1992年に駐留アメリカ軍が同国から撤退したことで生まれた「力の空白」に乗じて、中国は南シナ海の島嶼への事実上の侵略を開始した。特に2012年にルソン島西方のスカボロー礁で発生した両国艦船のにらみ合い事件が、近代化計画の直接的な引き金となった。

長いあいだ国内の治安維持・反乱鎮圧を主な役割としていたフィリピン軍には当時、まともな海軍戦力がなく、政府は外国の侵略に対する「領土・領海の防衛」能力を重視する近代化計画を策定。以降、新型艦を次々に就役させている。
2020-2021年には、排水量2600トンのホセ・リサール級フリゲート2隻が、2025年には発展型でミサイル垂直発射装置を搭載したミゲル・マルバール級ミサイル・フリゲート(3200トン)2隻が就役した。さらに海上パトロールを担う、ラジャ・スレイマン級哨戒艦(2400トン)6隻の建造も進んでいる。


「あぶくま」型に期待される役割
新型艦の配備が進むフィリピン海軍にとって、30年前の旧式艦導入に、どんな意味があるのか? それは主力新型艦の「補完」だ。フィリピンの領海は広く、“虎の子”の新型艦を温存しつつ、領海警備を遂行してくれる即戦力としての実働艦が求められているのだ。

そもそも、新型艦が配備されたといっても、それ以外の艦は半世紀以上前の超旧式艦ばかり。「あぶくま」型は最新鋭ではないが、それら超旧式艦と比べれば充分に近代的で大型の戦闘艦なのである。
「あぶくま」型輸出は、フィリピンにとって財政的制約のなかで艦艇数を確保し、対中抑止の実効性を高める現実的な選択であり、日本にとっては対中国のパートナーとしてフィリピンとの関係強化を強く推し進めるものだ。単なる装備輸出にとどまらず、日比防衛協力を深化させる重大なマイルストーンと考えることができるだろう。

