“低い”だけで終わらない。マグザムだから成立したロー&ロング

2005年に登場したヤマハ・マグザムは、“ベストタンデム・アーバンクルーザー”という独自コンセプトを掲げたビッグスクーターだった。フォルツァ、マジェスティ、スカイウェイブが街を埋め尽くした“ビッグスクーターブームど真ん中”ではなく、マグザムはその少し後。当時のビッグスクーターシーンといえば、車格を活かした収納力や豪華な装備を競うモデルが主流。そんな中でマグザムは、全長2365mmというロー&ロングなシルエットと、655mmの低いシート高を武器に、「街を流すためのスタイル」へ振り切った異色モデル。「純正で完成されてる感」が強く、そこが他車とちょっと違った。今振り返ると、“ビッグスクーター文化の完成形のひとつ”とも言える。今回紹介するのは、そんなマグザムをベースに、エアサスで“ベタ着地”するレベルまでローダウン化した一台。しかも製作のほとんどがDIYというから驚きである。

今回同行したSCRWORKS主催のライドイベントでも、LAから来日した北米勢が思わず二度見していた“日本独自のスクーター文化”を感じさせるマシンだった。見ての通り、とにかく低い。いや、“低い”なんてレベルじゃない。完全に着地している。でも面白いのは、ただエアサスで落としているだけではない点だ。この車両、着地姿勢を成立させるためにフレームを加工。前後エアサス化に合わせ、50mmストレッチ+100mm上げ加工を行い、さらにリヤホイール逃げまでパイプワークで作り直しているのである。完全にDIYの域を超えている。もっとも、オーナーは普段トラック架装関係の仕事に携わっているそうで、加工や構造変更は得意分野。どこか“トラックアート感”を感じるメッキ使いやシルエットなのも、そのバックボーンを知ると妙に納得できる。

しかもこのオーナー、かなりのスクーターフリーク。モトチャンプが後援しているイベント「スクーターミーティングへ」は6年前から参加し、シグナスXをこよなく愛し、シグナスXエンジンを積んだズーマーも所有しているという筋金入りだ。つまり今回のマグザムも、単なる懐かしのビッグスクーターではない。2000年代のビッグスクーターブームを知る世代が、2020年代の感覚と技術でアップデートした“ロー&ロング”なのである。そして、そこへUSカルチャー感が加わることで、この独特な空気感が生まれている。

特に海外勢に刺さっていたのが、“日本らしさ”。北米カスタムは削る美学が主流だけど、日本のビッグスクーター文化は逆に「盛る」「伸ばす」「着地させる」という独自進化を遂げてきた。その感覚が、彼らにはかなり新鮮だったようだ。レンジローバー純正のブリティッシュグリーンに、メッキのラジアルキャリパー、ハーレー純正クロームハンドル、そしてベタ着地するローフォルム。派手なのに下品じゃない。この絶妙なバランス感こそ、日本のビッグスクーター文化が生んだ美学なのかもしれない。

ホワイト塗装された5スポーク13インチ純正ホイールもポイント。レンジローバー純正色のブリティッシュグリーンとのコントラストが強く、どこか高貴な雰囲気を漂わせる。

■MACHINE:ヤマハ・マグザム ■OWNER:こにたくさんだぞ

ヌメっとしたフロントフェイスはマグザムならでは。そして地面へ吸い付くような着地姿勢は圧巻だ。このシルエットを成立させるため、DIYでフレームまで加工している。

フロントサスペンションはショートスプリング+APR製エアサス仕様。ベタ着地スタイルを成立させながら、走行時の車高も確保できる本格構成だ。

コクピット周り

ハンドル周りは、ハーレーダビッドソン純正クロームハンドル一式を流用。ボディカラーの深いグリーンとメッキのコントラストが美しい。

ハンドル周りの中でも強烈なのが、このスパイク形状グリップだ。国産ビッグスクーターへ“アメリカンカルチャー”を違和感なく溶け込ませるセンスが面白い。

オーディオにはROCKFORD製スピーカーを2基搭載。2000年代ビッグスクーターカルチャーを象徴するような装備だけど、今見ると逆に新鮮。

ブレーキ&足周り

フロントブレーキにはΦ295mmビッグローターとラジアルマウントキャリパーを投入。ブレーキホースはSWAGE-LINE製を採用し、パッドにはデイトナ製赤パッドをセット。制動系までしっかり作り込まれている。フロントタイヤサイズは140/60-13。

エアーサスペンションユニット

エアサスシステムは、シート下収納スペースを活用してビッグスクーターカスタムではお馴染みのDC-AIR製タンク&コンプレッサーをシート下へ設置。ボタン操作ひとつで車高が変化する、“着地系”には欠かせない装備だ。

ボディワーク

フレームはリヤタイヤがが干渉しないようパイプでワンオフ製作。エンジン搭載位置を50mmストレッチして、100mm上げ加工。強度もしっかり確保したフレームワークだ。

ステップはSUS304材から切り出し、#800仕上げでフィニッシュ。ボディパーツとの統一感も高く、“魅せる足元”として存在感を放っている。

リヤ周りはMoto Service MAC製シートカウルをベースに加工。マグザムらしいテールランプ周りがクール。着地時のナンバープレートの位置がインパクト大。

ベースマシンはこちら

2005年に「ベストタンデム・アーバンクルーザー」をコンセプトに登場。それまでのビッグスクーターが収納力や多機能を競っていたのに対し、「タンデム時の快適性」と「市街地でのスタイリッシュな走行」に特化した独自の価値観を提示。2015年には発売10周年を記念した限定モデルが登場したが、2017年に惜しまれつつも生産を終了。

取材協力

【SCR WORKS(東京)】

ズーマーをベースとしたUSDMスタイルを得意とするカスタムショップ。ショークオリティとストリートユースを両立した完成度の高いビルドで知られる。

メーカー公式サイトはこちら