『トミカ』の『No.83 ヤンマー トラクター YT5113 』は日本のヤンマーが製造販売している農業用トラクターです。ヤンマーという会社の名前は商標――自社の取り扱う商品やサービスを他社の商品やサービスと区別するために使用されるマーク ――に使用されている大型のトンボ、オニヤンマにちなんだものだそうです。
さて、トラクターとは英語で牽引(けんいん)自動車のことを言い、自力で動くことのできない台車や重量物などを引っ張って動かすために用いられます。18世紀、1769年にフランスの技術者であるニコラ=ジョゼフ・キュニョーによって作られた「世界初の自動車」である『キュニョーの砲車』もまた、大きくて重い大砲を馬に代わって引っ張るためのトラクター(ガントラクター=砲車)でした。つまり最も古い歴史を持つ自動車が牽引自動車=トラクターということになります。
トラクターには『キュニョーの砲車』のように大砲を引っ張るための軍用トラクターをはじめとして、農業用、土木工事用、貨物トレーラーを引っ張る輸送用トラックなど、様々な用途のものがありますが、現在では軍用や土木工事用のものは建機などの専門的な機械へと発展したため、トラクターと言うと一般には農業用トラクターのことを指すようになってきています。
農業用トラクターは耕作などの農作業を、それまで頼っていた馬や牛などの家畜の力に代わるために作られました。1859年にイギリスのトーマス・アベリングという技術者によって作られた蒸気式トラクターは、まさに土の上を走る蒸気機関車のような形をしていますが、これが「農業用トラクターの元祖」とされています。1892年にはガソリンエンジンのトラクターが作られ、1910年前後に普及を始めます。日本でも1910年前後から外国製のトラクターが導入され始めましたが、1937年に国産初の乗用型トラクターが山岡発動機工作所によって開発・製造されました。このトラクターが『ヤンマー乗用型トラクター』であり、山岡発動機工作所が後のヤンマーです。つまりヤンマーは国産初の農業用トラクターを作った会社ということになります。
2012年、創業100周年を迎えたヤンマーは『プレミアムブランドプロジェクト』をスタートさせ、その一環として2013年に『農の未来』を提唱、新しい農業の象徴としてコンセプトトラクター『YT01』を発表しました。東京モーターショーにも出展されて話題となったこのコンセプトトラクターは、「新しい農をクリエイトする」というスローガンのもとに、イタリアの有名なスーパーカーなどを手掛けられた世界的なカーデザイナーであり工業デザイナーとして知られる「ケン奥山」こと奥山清行氏と氏が代表を務められている『KEN OKUYAMA DESIGN』によって生み出されたものです。ヤンマーのコーポレートカラーの赤色を一段と際立たせたプレミアムレッドに彩られた『YT01』は、「既存の枠にとらわれないカッコいいスタイリング」を示したことで多方面からの関心を集めました。
この『YT01』をベースに、そのコンセプトを継承・拡大しつつ具現化した量産化モデルが2015年に登場した『YTシリーズ トラクター』です。この『YTシリーズ トラクター』は当初、YT490、YT5101、YT5113の3つのサイズが作られましたが、『トミカ』の『No.83 ヤンマー トラクター YT5113』のモデルであるYT5113は、最も大きなサイズのトラクターになります。『YTシリーズ トラクター』は2022年現在では、ヤンマーの標準トラクターとなり、最も小型のYT118から最も大きなYT5113まで、統一されたコンセプトとデザインで展開されています。
『YTシリーズ トラクター』は大きく開くドアを備えたゆったりと広い車内スペースに、前面と両サイドドアに継ぎ目のない曲面1枚ガラスを採用して330度ぐるりと見渡せるパノラマ視界を備え、防振フレーム構造の採用で振動・騒音を大幅に低減して、長時間の作業でも操縦者が疲れないよう配慮されています。また、自然な姿勢で迷わずラクに操作できるようにレバーやスイッチが配置され、自動機能も充実させて操縦者の負担を軽減させており、様々な情報を瞬時に把握して活用できるカラーモニターも備えられています。
エンジンは強大なパワーと低燃費を実現したコモンレール式ディーゼルエンジン。これに排気ガス中環境汚染物質である窒素酸化物(NOx)を大幅に削減する尿素SCRシステムと微小粒子状物質(PM)を捕集するDPFを装着し、強大なパワーと環境へのやさしさを高次元で両立させた自社製の高出力CRエンジンが搭載されています。このエンジンに組み合わされるのが、最適速度をいつでも、なめらかに選べる、変速ショックのない高効率無段変速トランスミッション『I-HMT』です。
さらにこの『YTシリーズ トラクター』には全輪が履帯(りたい)式となったクローラートラクター(C仕様)や、後輪が履帯式となったハーフトラック形式のデルタ仕様(D仕様)、前後輪のトレッド(輪距)が調節できるパワートレッド仕様(M仕様)などのバリエーションが用意されており、人工衛星などによる位置情報やロボット技術などのICT(情報通信技術)を活用した自動運転仕様の『SMART PILOT』シリーズが2018年に加わっています。
思いのままの使いやすさや乗り心地と作業性、最先端のデザインと最新のクリーンエンジンなど、すべてが効率よく快適に仕事が出来るように考えられて作られた『YTシリーズ トラクター』は、まさに「新しい農をクリエイトする」ためのプレミアムなトラクターなのです。
『トミカ』の『No.83 ヤンマー トラクター YT5113』は、その『YTシリーズ トラクター』の魅力的なデザインとプレミアムレッドの色調を上手く再現しており、ぜひともコレクションしたくなる1台となっています。
■ヤンマー 乗用型トラクター YT5113A YUQN6型 ホイル仕様 主要諸元(『トミカ』と同一規格ではありません)
全長×全幅×全高(mm):4285×1850×2710
ホイールベース(mm):2400
標準トレッド(前/後・mm) :1380/1420
最小旋回半径(m):3.9
機体質量(kg):3700
エンジン形式:4TNV94FHT型 直列4気筒直噴エコディーゼル
総排気量:3053cc
最高出力:83.1kW(113PS)/2500
最高速度(前進/後進・km/h):34.0/26.0
トランスミッション:無段HMT
ブレーキ形式:ディスク
タイヤ区分・サイズ(前/後):並ラグ・9.5-24ZZ/13.6-38ZZ