まさに未来派のバス! これも『トミカ』にあるんです!

トミカ × リアルカー オールカタログ / No.82 トヨタ SORA

発売から50年以上、半世紀を超えて支持される国産ダイキャストミニカーのスタンダードである『トミカ』と、自動車メディアとして戦前からの長い歴史を持つ『モーターファン』とのコラボレーションでお届けするトミカと実車の連載オールカタログ。あの『トミカ』の実車はどんなクルマ?
No.82 トヨタ SORA (希望小売価格550円・税込)

トヨタ『SORA』は乗り合いバス型燃料電池車で、燃料電池を用いたバスとしては国内で初めて型式認証を取得しています。燃料電池とは、水素と酸素を化学反応させて、電気を作り出す(発電する)装置です。電池という名前は付いていますが、蓄電池のように充電した電気を溜めておくものではありません。乱暴に言えば、自分で発電するクリーンで小さな発電所のようなものです。

トヨタ SORA 実車フロントビュー(2019年モデル)
トヨタ SORA 実車リヤビュー(2018年モデル)

燃料電池の燃料となる水素は、一般に天然ガスやメタノールを改質(化学反応させて性質を変えること)して作ります。また、酸素は大気中から取り入れます。さて、燃料電池の構成単位をセル(単電池)と呼びますが、このセルは良く知っている乾電池のようにプラスの電極板(空気極)とマイナスの電極板(燃料極)が固体高分子膜(電解質膜)をはさんだ構造をしています。空気極(プラス)と燃料極(マイナス)には数多くの細い溝が掘られていて、ここを外部から取り入れられた酸素と燃料として供給された水素が通ることにより化学反応が起こります。

左側、屋根の上の黄色いタンクが高圧水素タンク。右側の屋根上に描かれているのが燃料電池(FCスタック)。水素と酸素を化学反応させて電気を作り、駆動用バッテリーの電気と合わせて右側床下のモーターを動かす仕組み。

外部から燃料として供給された水素の中の水素分子(H2)は、燃料電池の燃料極(マイナス電極)内にある触媒に吸着されて活性な水素原子(H-H)となります。この水素原子は燃料電池の固体高分子膜(電解質膜)と接する面まで入り込んで、電子を遊離して水素イオン(2H+)となり2個の電子(2e-)を電極へと送り出します。この電子は外部回路を通って反対側の空気極(プラス電極)に電流として流れます。空気極(プラス電極)では、外部から供給された酸素分子(O2)が外部回路から戻ってきた電子を受け取り酸素イオン(O2-)となります。一方、燃料極(マイナス電極)で電子を取られてプラスの電荷を帯びた水素イオン(2H+)は、電解質を伝って空気極(プラス電極)に移動し、マイナスの電荷を帯びた酸素イオンと結合し水(H2O)となるというわけです。この、電子とイオンに分かれて電子が電流として流れるというところが燃料電池の原理の最も重要な部分になります。電流が流れるということは、すなわち電気が発生するということです。かなり難しく面倒な話になりますから、一般的には水素と酸素を化学反応させて電気を作り出し、余分なものは水(H2O)として排出するということを押さえておけば十分でしょう。また、燃料電池は発電と同時に熱も発生しますので、その熱を活かすことでエネルギーの利用効率を高めることもできます。

大容量外部給電システムを搭載しており、災害時などには『SORA』を電源として利用することが可能となっている。

燃料電池は発電の際には水しか排出されず、振動も騒音もありません。また、都市ガス、メタノールなどの燃料や水の電気分解といった様々な方法で燃料となる水素を取り出すことができます。そして電気と同時に熱も利用できるため総合エネルギー効率が高くなります。以上のような利点から世界中の自動車メーカーが燃料電池を搭載した自動車の研究・開発と実用化を進めているのです。

トヨタも例外ではなく、熱心に燃料電池車の開発を進めてきた自動車メーカーのひとつです。トヨタの考案した燃料システムは、燃料電池で発電した電気をそのまま使うのではなく、いったん二次電池(蓄電池)に貯めることで安定して電気を使うことが特徴です。燃料電池と二次電池を併用することから、トヨタでは燃料電池複合型自動車(Fuel Cell Hybrid Vehicle)と呼び、その英語の頭文字をとって燃料電池自動車をFCHVと呼んでいます。

『SORA』は燃料電池により、走行時にCO2 や環境負荷物質を排出しない優れた環境性能と、騒音や振動が少ない快適な乗り心地を実現している。

FCHVには乗用車型のほかにバス型の物も作られ、2001年に日野自動車と共同開発した『FCHV-BUS1』を皮切りに、翌2002年の第二世代車『FCHV-BUS2』、2005年の第三世代車を経て、2014年には乗用車型燃料電池車『MIRAI』の技術を織り込んだ量産前提の『FCバス(TFCB)』が登場、2017年に初の量産車である『トヨタFCバス』が登場します。そして『トヨタFCバス』の後継として2018年に登場したのが『SORA』です。『トヨタFCバス』は量産販売されましたが、あくまで改造車扱いであったため、独自の独立した車両として国交省の型式認証を取得したのはこの『SORA』が初めてとなります。

『SORA』には燃料電池自動車『MIRAI』向けに開発された『トヨタフューエルセルシステム(TFCS)』が採用され、走行時にCO2 や環境負荷物質を排出しない優れた環境性能と、騒音や振動が少ない快適な乗り心地を実現しています。また、「社会のために働くクルマ」が意識されて大容量外部給電システムを搭載、高出力かつ大容量の電源供給能力(最高出力9kW、供給電力量235kWh)を備えており、災害時などには『SORA』を電源として利用することが可能となっています。

未使用時には自動的に格納されるシートを日本初採用。ベビーカーや車いす利用者と一般利用者の居住性を両立させている「すべての人に優しい」設計だ。

すべての人がより自由で快適に移動できるよう、未使用時には自動的に格納されるシートを日本初採用し、ベビーカーや車いす利用者と一般利用者の居住性を両立させています。さらに、車内外に配置した8個の高精細カメラの画像を運転席モニターに表示、バス停車時には周囲の歩行者や自転車などの動体を検知し、運転手へ音と画像で知らせる『視界支援カメラシステム(バス周辺監視機能)』を日本初搭載して安全性を向上させています。これらに加え、やはり日本初となる、モーター走行により変速ショックがないことに加え、急加速を抑制し緩やかな発進を可能とする加速制御機能を採用。車内で立っている乗客の安全性に配慮しています。

バス停車時には周囲の歩行者や自転車などの動体を検知、運転手へ音と画像で知らせる『視界支援カメラシステム(バス周辺監視機能)』を日本初搭載。

2019年には安全性、輸送力ならびに速達・定時性を向上させる改良が施され、路側装置と車両の通信により取得した対向車・歩行者情報、信号情報などを活用してドライバーに注意喚起を促す『ITS Connect 路車間通信システム(DSSS:Driving Safety Support Systems)』をはじめ、ドライバーに急病などの異常が発生した際に、乗客が非常停止させられる『ドライバー異常時対応システム(EDSS:Emergency Driving Stop System)』、衝突警報、青信号の延長や赤信号の短縮を路側装置に要求する公共交通優先システム『ITS Connect 電波型PTPS(車群対応機能付)』などが装備されています。『SORA』は発売以来、日本全国のバス会社で採用台数を伸ばしており、今後も続々と採用されることでしょう。

さて、『トミカ』の『No.82 トヨタ SORA』は、従来の路線バスに見られる六面体(箱形)から大きく異なる立体的な造形を追求し、一目でFC バスとわかる特徴的なデザインのエッセンスが上手く再現されています。まさに「未来のバス」というおもむきの1台、コレクションに加えてみてはいかがでしょうか。

■トヨタ SORA主要諸元

全長×全幅×全高(mm):10525×2490×3350

ホイールベース(mm):5300

トレッド(前/後・mm) :2055/1840

車両重量(kg):11610

最小回転半径(m):8.5

燃料電池スタック形式:トヨタFCスタック(固体高分子形) FCA110型

燃料電池体積出力密度:3.1kW/ℓ

燃料電池スタック最高出力:114kW(155ps)×2

燃料:圧縮水素

モーター種類:4JM型 交流同期式

モーター最高出力:113kW(154ps)×2

モーター最大トルク:335Nm(34.2kgm)×2

高圧水素タンク本数/公称使用圧力:10本/70MPa

タンク貯蔵性能:5.7wt%

高圧水素タンク内容積:600ℓ

外部電源供給システム最高出力/供給電気量:9kW/235kWh

駆動用バッテリー:ニッケル水素電池

トランスミッション:

サスペンション(前/後):車軸懸架

ブレーキ(主/補助):フルエアブレーキ/リターダ(電磁式)

タイヤ:(前後):275/70R22.5

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